解体工事を行う際の損害賠償保険加入は必須?保険の種類もご紹介!
家屋や建物の解体工事を依頼する際に、解体業者が損害賠償保険に加入しているのかどうか気になるという方も多いでしょう。解体工事は事故やトラブルが発生しやすいものであり、万一の際に補償できるように準備しておくことが大切です。そこで今回は、解体工事と損害賠償保険の関係に焦点を当てて、保険への加入は必須なのかどうかという視点で解説を行っていきます。解体工事用の損害賠償保険には複数の種類があるので、それらも取り上げていきます。解体工事を依頼する施主の立場からも必要な情報をお届けしていきますので、どうぞ参考にしてください。
解体工事での損害賠償保険とは?
それではまず、解体工事での損害賠償保険とは何かというところから確認していきます。家屋や建物の解体工事中は事故やトラブルが起こりやすいものであり、事故やトラブルが発生した際に補償してくれるのが損害賠償保険の存在です。
損害賠償保険で全ての事故やトラブルをカバーできるわけではないので、必要に応じて自動車保険や労災保険といった保険に加入しておくことも大切です。民法の規定も含めて、損害賠償保険加入の必要性について理解していきましょう。
解体工事は事故が起こりやすい
解体工事を行う解体業者は損害賠償保険に加入しておくことが大切です。と言うのも、解体工事は事故が起こりやすいからです。専門的なスキルや経験を持っていたとしても、解体工事は常に危険がつきまとうものであり、以下のような事故を起こす可能性も否定することができません。
- 解体した際に出た瓦礫が隣家に当たってしまった
- 解体現場近くの通行人や車両に被害を加えてしまった
- 重機を使用している際、誤操作によって隣家に損傷を与えてしまった
ちょっとした例を挙げるだけでも、解体工事中に潜むリスクについて簡単に洗い出すことができます。それだけ危険が伴っているのが解体工事であり、何が起きるかわからないと考えておくことがポイントです。もちろん解体作業員は万全の対策を取って、事故やトラブルには十分注意を払いながら作業を進めていきます。
それでも、ちょっとした不注意や緩慢な対応によって事故が発生してしまうこともあります。その際に頼りになるのが損害賠償保険の存在です。万一、第三者に被害や損害を与えてしまった場合に、保険の補償金によって損害賠償金を支払うことができます。解体業者も施主も、ここまでしっかりと理解しておくことが大切です。
損害賠償に関する民法の規定
解体工事では事故が起こりやすいことを想定しておき、万一の際のリスクに備えておくことが大切です。解体工事で事故やトラブルが発生した場合は、損害賠償請求の対象になるわけですが、それに関しては民法での規定があります。解体業者側の不手際や不注意によって近隣の住宅や住民などに被害を加えた場合は、民法709条の規定によって損害賠償責任を負う必要性が出てきます。
民法709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を損害したものは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法709条の規定によって、故意や過失で損害を与えた場合は解体業者が損害賠償責任を負うことになり、然るべき賠償を行うことになります。一方で、工事を依頼した施主の側についても、民法では規定があります。民法716条の内容を確認していきましょう。
民法716条(注文者の責任)
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指示についてその注文者に過失があった時はこの限りではない。
民法716条の規定を確認すると、解体工事中に発生した近隣住宅への損害や第三者への損害に関しては、あくまでも解体業者が責任を負うものだと考えることができます。したがって、原則として工事を依頼した施主が何かをしなければならないということはありません。
ただし、施主に何らかの過失があると認められた場合は、施主も損害賠償責任を負うことがあるので注意が必要です。ここで言う過失とは、例えば、解体業者に無茶な工期や見積もりで工事を行わせたり、悪天候の中でも無理に工事を続行させたりした場合などが挙げられます。
施主の無謀な指示や要求によって事故やトラブルが発生した場合は、施主の過失と見なされ損害賠償請求の対象となることがあります。そのため解体工事を依頼する場合は、決して無理のない範囲で工事を行ってもらうように業者に働きかけることが大切です。
損害賠償保険加入の必要性
基本的に解体工事中に発生した事故やトラブルに関しては、解体業者が責任を負うことがほとんどです。稀に施主の過失が認められて、施主も損害賠償を求められることがありますが、それほど多いわけではありません。そう考えると、解体業者は確実に損害賠償保険に加入しておく必要があると考えることができます。
解体工事はいくら万全の体制で臨んでも、何らかの不注意や不手際によって事故が発生してしまうことがあります。事故を起こそうと思って起こしてしまった場合は論外ですが、一生懸命真面目に工事をしていても事故が起きてしまうことがあります。
事故が起きた場合は、被害者から多額の賠償金を請求されることになります。その際に保険に加入していなかったら、解体業者自身の力で賠償金を支払わなければならなくなります。賠償金を支払うことができなければ事業継続が難しくなり、倒産といった憂き目を見ることになるリスクも排除できません。
こうした点を総合的に勘案すると、損害賠償保険には確実に加入しておくことが求められます。解体工事では重機を使った作業を行うことも多く、振動も随時発生することになります。振動の発生によって近隣の住宅の壁にヒビが入るといった可能性もあります。重機の誤操作によって隣家の壁やフェンスを壊してしまうこともあるかもしれません。
そうしたリスクに備えるという意味でも、解体業者は必ず損害賠償保険に加入することが大切です。
解体業者の損害賠償保険加入
解体工事を行う業者側は、確実に損害賠償保険に加入しておく必要があると認識しておきましょう。その中で、施主としてできることや確認するべきこともあるのが解体工事です。実際に工事を行うのは解体業者ですが、解体業者を選ぶのは施主の役割です。少しでも安全で、安心して工事を依頼できる業者を探すことがポイントです。
したがって、施主は解体業者の損害賠償保険加入という視点を持ちつつ、業者選びを進めていくことが求められます。損害賠償保険加入の観点から、業者選びの際に行っておきたいポイントについて確認していきましょう。
解体業者に保険加入状況を確認
まず、施主が解体業者を選ぶ際にできることとして、保険加入状況を確認することが挙げられます。ここまでご紹介してきたように、解体業者が損害賠償保険に加入することは必須だと理解しておく必要があります。その上で、保険への加入を前提とした業者選びを行うことが施主には求められています。
万一、事故が発生した際に、損害賠償保険に加入していない業者の場合は、賠償金を支払い切れなくなる可能性があります。さらに悪質なケースだと、賠償金を支払いたくないばかりに、業者が賠償責任を逃れるような行動を取る可能性も否定できません。そうなると事故やトラブルの矢面に立つのが施主になる可能性もあり、とばっちりを受けることになります。
つまり、損害賠償保険への加入は解体業者を守るためだけではなく、施主自身を守るという意味でも行っておきたいものだと言えます。賠償金額が大きくなればなるほど、解体業者側の財力だけで対応できなくなっていく可能性が高まります。そもそも賠償金を支払う能力がないということになると、事態は悪化していく一方であり、施主に矛先が向かうことも考えられます。
適切な保険に加入している業者であれば、そこまで事態が悪化するリスクを低減させることができます。解体工事の契約を結ぶ前には、担当者に対して以下のポイントを確認しておくことが大切です。
- 損害賠償保険に加入しているかどうか
- 賠償金の限度額がいくらの保険に加入しているのか
- 賠償の適用範囲はどこまでか
上記の3点を聞きつつ、可能であれば保険証券のコピーを提示してもらうなどして、担当者の発言と相違ないか確認することが効果的です。さすがにここまでするのは大げさだと思う施主の方もいるかもしれませんが、ご自身の身を守るという意味でも確実に行っておきたい行動です。
施主が加入する必要はない
解体工事を行う解体業者は確実に損害賠償保険に加入しておく必要がありますが、施主が損害賠償保険に加入する必要はありません。基本的に、解体工事を行う業者側が加入するのが損害賠償保険であり、建設工事保険や組立保険といった名称の保険が用意されています。
民法716条の規定でも確認したように、原則として施主が何かを問われることはありません。施主の過失が認められた場合は施主の責任も問われることになりますが、まずは解体業者に然るべき保険に加入してもらうことが重要です。
施主としては無理のない工事計画を立ててもらい、確実に工事を実行してもらえるようにサポートすることがポイントです。
未加入の業者も存在
解体業者は基本的に損害賠償保険に加入して工事を行う必要がありますが、現在でもなお保険に未加入で工事を行っている業者は存在します。損害賠償保険に加入するためには、一定の保険料を支払う必要があります。その保険料も解体業者にとっては負担であり、少しでも経済的な負担を減らすためにあえて保険に加入していないという業者もあります。
安全対策に関しての意識が高い業者であれば、確実に加入するのが損害賠償保険です。一方で、安全対策への意識が低い業者や、そもそも事業が上手くいっていない業者は保険料の支払いを嫌って保険に加入しない傾向があります。
事故やトラブルは、どんなに気をつけていても起きてしまうものです。それにも関わらず安全への意識が欠如している業者に工事を依頼してしまうと、ますます事故の発生率を高めてしまいかねません。施主自身の身を守るという意味でも、損害賠償保険に未加入の業者に工事を依頼することはおすすめできません。
解体業者選びについてはさまざまなポイントがありますが、そのうちの1つとして、損害賠償保険への加入有無を重視すると良いでしょう。
業者選びの参考に
安全かつ安心して解体工事を進めてもらうためには、損害賠償保険に加入している業者に工事を依頼することがポイントです。その点で、損害賠償保険への加入有無は業者選びの際の参考になると考えることができます。
契約を結んでから保険に未加入だったと知ってもすでに遅いので、必ず契約前に保険加入の有無を確認しておくことが大切です。本文中でも触れましたが、可能であれば保険証券のコピーを提示してもらうなどして、確実に保険に加入していることがわかった状態で契約を結ぶことがおすすめです。
保険については、丁寧に確認しすぎて困ることはありません。万一、契約後に未加入であることがわかって工事中に事故やトラブルが起きてしまうと、本当に困るのは施主です。解体業者側はもともと保険に加入していないことを知っていて工事をしているので、施主ほどの衝撃はないかもしれません。
しかし、保険に未加入であることを知らずに工事を依頼してしまった施主としては、今後どのように行動すれば良いのかわからなくなって頭が真っ白になってしまう可能性もあります。解体業者が起こした事故やトラブルの影響で人生を台無しにされることがないように、施主としてできることは確実に行っておきましょう。
施主が保険への加入を促す
解体工事を依頼する場合は、解体業者に損害賠償保険へ加入しているかどうか確認することが大切です。その際に保険に加入していると言われれば問題ありませんが、加入していないケースもあるでしょう。
どうしてもその業者に工事を依頼したいのであれば、施主が保険への加入を促すという行動を取ることもできます。例えば、施主から「保険料の負担分を見積もりに計上してもらっても良いので、保険に加入してください」という形で促すこともできます。
保険料の支払いが大きな負担になっていると感じて、なかなか保険に加入しない業者は少なくありません。施主が保険料分の負担を行ってハードルを取り除いてあげることで、加入に前向きになっていく業者もあるでしょう。それでも保険に加入してくれない場合は、他の業者を検討することが有効です。
本来であれば業者自身の意思で保険に加入することが一番です。施主が保険加入を促しても実行に移さなければ、工事を依頼するのはあきらめた方が良いでしょう。
損害賠償保険の他、できれば自動車保険や労災保険といったタイプの保険にも加入してもらえると最適です。と言うのも、損害賠償保険だけでは想定される事故やリスクを全てカバーすることができないからです。
例えば、解体現場に自動車が乗り入れる場合は、自動車保険に加入しておいた方が良いでしょう。基本的にナンバープレートがついている自動車が関わった事故に関しては、自動車保険が適用されることになっています。損害賠償保険では対応できない可能性があることを認識することが大切です。
作業中のトラブルや事故に関しても、労災保険が適用されるのか損害賠償保険が適用されるのか判断が分かれることもあります。できるだけ複数の保険に加入してもらうことで、解体業者と施主の安全を守ってもらうことがポイントです。
解体工事における損害賠償保険の種類
ここからは、解体工事における損害賠償保険の種類について確認していきます。解体工事を依頼する業者には保険に加入してもらうことが大前提となりますが、どういった保険に加入するのが良いのか頭に入れておくことも大切です。その参考として、損害賠償保険の種類について理解を深めていきましょう。
会社単位の保険
まず、解体工事の際に加入できる損害賠償保険として会社単位の保険を挙げることができます。これは、その名の通り会社単位で加入する年間単位の保険のことを指します。会社の年間の売上金額によって保険料が決まるところに特徴があり、保険料支払いに関する不公平感がないところに魅力があります。
売上が多い会社はその分保険料も高くなりますし、売上が伸び悩んでいる会社は、その分保険料負担も安く済むという形です。会社単位の保険に加入してしまえば、年間を通じて万一の事故やトラブルの補償をしてくれるので、工事を依頼する側としては長期的に安心することができます。
工事単位の保険
続いての損害賠償保険の種類として、工事単位の保険を挙げることができます。これは工事現場ごとに加入するタイプの保険で、会社単位の保険と併用する形で加入する業者もあります。業者自身にとって損害賠償金額の支払い能力を超えるようなリスクがある工事現場については、工事単位の保険に加入しておくことで、万一の事故やトラブルに備えることができます。
特に大型ビルや大型マンションの解体工事など、人の出入りが多かったり重機使用の期間が長かったりする工事などで加入する業者も多くなっています。また、市街地の建物を解体する場合など、通行人が多い解体現場でも重宝される保険です。
工事単位の保険に関しては、工事内容の請負金額によって保険料の負担額が決定します。会社単位の保険と同様に、一律で決まった金額があるわけではありません。また、加入した工事のみに適用されることになります。他の工事で保険を適用させたい場合は、また保険に加入し直す必要があるので覚えておきましょう。
車両単位の保険
解体工事における損害賠償保険の種類としては、車両単位の保険も挙げることができます。これは、解体工事で使用する重機など、車両単位で加入する年間契約の保険となります。重機や車両の誤操作やトラブルによって生じた事故の補償を受ける目的で加入することができます。
工事でよく使う重機や車両に対して保険をかけておくことで、万一の際にも備えることができます。どの重機や車両に保険をかけるかは業者の考え方次第ですが、会社単位の保険や工事単位の保険と同様に加入しておいて損はありません。
安全面の意識を高めるという意味でも、業者として多くの保険に加入することが有効です。
騒音や粉じんは保険適用外
解体工事の損害賠償保険には複数の種類があることをご紹介しましたが、注意するべきポイントもあります。それは、騒音や粉じんの飛散に関しては保険の適用外になることです。解体工事において騒音の発生や粉じんの飛散は事前に想定できることであり、対策を取ることで防げると考えられています。
保険の適用範囲となるのは、「不測の事態」によって事故やトラブルが発生した場合です。あらかじめ想定することができる騒音や粉じんの飛散に関しては、「不測の事態」と言い切ることができません。
そのため、損害賠償保険に加入していても、騒音や粉じんの飛散によって生じた事故やトラブルに関しては保険の適用を受けることができないのです。騒音や粉じんの飛散に関しては、養生や防音シートなどで建物の周囲を囲うことで一定の対策を取ることができます。そうした対応をすることによって、無用な事故やトラブルの発生を防ぐことがポイントです。
近隣挨拶も忘れずに
騒音や粉じんの飛散などは保険適用の対象外となりますが、近所トラブルに発展するのを避けるために近隣挨拶を行っておくことも大切です。騒音や粉じんの飛散によって近隣にご迷惑をお掛けした場合、事前に挨拶を行っていたか行っていなかったかによって、被害者の対応が変わってくることがあります。
挨拶をしていたからと言って完全に怒りを防ぎ切ることはできませんが、それでも挨拶をしなかった場合よりも事態の悪化を避けやすくなると言えます。ちょっとした被害であれば、相手も損害賠償の請求をしないという判断をしてくれる可能性が出てくるでしょう。もちろん、近隣にご迷惑をお掛けしないように万全の体制を敷くことが大切ですが、近隣の方の理解と協力を求める意味でも事前の挨拶に伺っておくことがポイントです。
まとめ
解体工事と損害賠償保険の関係に注目をして、具体的に解説を行ってきました。まず覚えておきたいこととして、解体工事では事故やトラブルが起こりやすいという点を挙げることができます。場合によっては多額の損害賠償請求をされることもあり、解体業者としても支払いきれないような額を求められる可能性があります。
その時の助けになるのが損害賠償保険であり、さまざまな種類の保険に加入することで、万一の事故に備えておくことが大切です。施主としても、保険に加入していない業者に工事を発注するのではなく、保険に加入している業者に依頼することが有効です。解体業者と施主の双方を守ってくれるのが損害賠償保険であり、適切な保険に加入してから工事を開始するようにしましょう。