防水工事を行う目的や理由とは?種類別のメリット・デメリットや選択基準を解説

収益物件を受け継いでから屋上の防水工事が必要になり、その対応に困っている方が近年多くなっています。しかし、防水工事には様々な種類があり、それぞれメリットやデメリットが異なります。また、施工場所や建物の劣化状況、工事の時期などにも注意する必要があります。

この記事では、防水工事を行う目的とは何か、防水工事の種類別メリット・デメリットや選択基準を解説します。アパート・マンション一棟に限らず、防水工事を検討している方はぜひ参考にしてください。

防水工事を行う目的や理由とは何か?

防水工事は建物の屋根や壁などに施され、雨水や湿気などの侵入を防ぐために行います。防水工事は、建物の寿命を延ばし、快適な住環境を保つために非常に重要です。建物内部の湿度を適切に保ち、カビや腐食などの問題を防ぐほか、建物の耐久性を向上させ、長期的なメンテナンスコストを削減します。

防水工事を行う目的や理由は、主に以下の3つです。

  • 建物の耐久性を高める
  • 建物の美観を保つ
  • 快適な住環境を実現する

防水工事の必要性

特に日本では、梅雨や台風などの多湿な気候条件下で建物が損傷するリスクが高く、建物を雨や湿気から守るために防水工事は必要不可欠です。

防水工事が不十分だと、雨漏りが発生して腐食などによって建物自体の劣化が進み、美観に悪影響を及ぼしたり修繕費用がかさんでしまいます。屋根やベランダなどは、雨や雪などの自然現象に直接さらされる部分なので、防水性能が低下すると建物全体に影響が出ます。

防水工事は、建物の種類や用途に応じて適切な方法を選択し、専門的な技術と知識を持った業者に依頼する必要があります。

防水工事の種類別、メリットとデメリット

防水工事には様々な種類がありますが、大きく分けると5つに分類されます。それぞれには特性があり、適用する場所や状況によって最適なものが異なります。以下では、主要な防水工事の種類とそれぞれの特性、メリットとデメリットについて説明します。

施工方法 費用 耐用年数 工期 推奨
ウレタン防水 5,000~7,500円/㎡ 10年 2日~1週間 全て
FRP防水 6,000~9,000円/㎡ 10年 1~3日間 ベランダ
ゴムシート防水 4,000~8,000円/㎡ 10年 1~3日間 屋上
塩ビシート防水 4,000~8,000円/㎡ 10~15年 1~4日間 屋上
アスファルト防水 6,000~8,000円/㎡ 15~25年 1~2週間 ビル屋上

ウレタン防水(塗膜防水)

塗膜防水の特性と施工部位

ウレタン防水(塗膜防水)とは、ウレタン樹脂を液状にして塗布し、乾燥させて防水層を形成して防水効果を得る方法です。ウレタン樹脂は、弾力性や耐久性に優れており、屋根やベランダなどの平面部分や、壁や柱などの立面部分にも適用できます。また、色や厚さを自由に調整できるため、建物のデザインに合わせることができます。

塗膜防水の費用・工期・耐用年数

ウレタン防水(塗膜防水)の費用は、施工面積や塗膜の厚さ、塗装回数などによって異なりますが、一般的には1平方メートルあたり5,000~7,000円程度です。工期は、天候や気温などにも影響されますが、2日から約1週間程度です。耐用年数は施工から10年程度ですが、定期的なメンテナンスや補修を行うことで延ばせます。

塗膜防水のメリットとデメリット

メリット

ウレタン防水(塗膜防水)のメリットは以下の通りです。

  • 弾力性や耐久性に優れており、建物の動きに対応できる
  • 施工部位や形状に制限がなく、隅や曲面なども施工できる
  • 色や厚さを自由に調整できるため、建物のデザインに合わせることができる
  • 施工時に発生する臭いやホコリが少ない
デメリット

ウレタン防水(塗膜防水)のデメリットは以下の通りです。

  • 施工時に気温や湿度などの条件が厳しく、乾燥時間が長い
  • 施工時に均一に塗布することが難しく、ムラや剥離が発生しやすい
  • 紫外線や酸化などによって劣化しやすく、色あせやひび割れが発生しやすい

FRP防水

FRP防水の特性と施工部位

FRP防水とは、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastic)を用いて防水効果を得る方法です。FRPは、ガラス繊維やカーボン繊維などの強化材を樹脂で固めたもので、軽量で強度や耐食性に優れています。

FRPを板状に成形して防水層として貼り付ける方法と、FRPを液状にして塗布する方法があります。FRP防水は、屋根やベランダなどの平面部分や、浴室やトイレなどの湿気の多い部分に適用できます。

FRP防水の費用・工期・耐用年数

FRP防水の費用は、施工面積やFRPの種類や厚さなどによって異なりますが、一般的には1平方メートルあたり6,000~8,000円程度です。工期は、1日から3日間程度です。耐用年数は施工から10年程度ですが、5年毎に定期的なメンテナンスや補修を行うことで延ばせます。

FRP防水のメリットとデメリット

メリット

FRP防水のメリットは以下の通りです。

  • 軽量で強度や耐食性に優れており、建物の負担を減らすことができる
  • 施工部位や形状に制限がなく、隅や曲面なども施工できる
  • 色や模様を自由に選べるため、建物のデザインに合わせることができる
  • 施工時に発生する臭いやホコリが少ない
デメリット

FRP防水のデメリットは以下の通りです。

  • 施工時に気温や湿度などの条件が厳しく、乾燥時間が長い
  • 施工時に均一に塗布することが難しく、ムラや剥離が発生しやすい
  • 熱や衝撃に弱く、ひび割れや剥がれが発生しやすい

ゴムシート防水

ゴムシート防水の特性と施工部位

ゴムシート防水は、合成ゴムを主成分としたゴム製のシートを防水層として貼り付け、接着剤で固定することで防水効果を得る方法です。ゴムシートには、天然ゴムや合成ゴムなどの種類があり、柔軟性や耐久性に優れています。

屋根やベランダなどの平面部分や、浴室やトイレなどの湿気の多い部分に適用できます。また、ゴムシート防水は色や模様を自由に選べるため、建物のデザインに合わせられます。

ゴムシート防水の費用・工期・耐用年数

ゴムシート防水の費用は、施工面積やゴムシートの種類や厚さなどによって異なりますが、一般的には1平方メートルあたり4,000~6,000円程度です。工期は、1日から3日間程度です。耐用年数は、施工から10年程度です。

ゴムシート防水のメリットとデメリット

メリット

ゴムシート防水のメリットは以下の通りです。

  • 柔軟性や耐久性に優れており、建物の動きに対応できる
  • 色や模様を自由に選べるため、建物のデザインに合わせることができる
  • 施工時に発生する臭いやホコリが少ない
デメリット

ゴムシート防水のデメリットは以下の通りです。

  • 施工時に気温や湿度などの条件が厳しく、乾燥時間が長い
  • 施工時に接着剤を使用するため、剥離や浮きが発生しやすい
  • 熱や紫外線に弱く、劣化しやすく、色あせやひび割れが発生しやすい

塩ビシート防水

塩ビシート防水の特性と施工部位

塩ビシート防水とは、塩化ビニル樹脂(Polyvinyl Chloride)を用いたシートを防水層として使用し、熱で溶接して固定することで防水効果を得る方法です。塩化ビニル樹脂は、耐熱性や耐候性に優れており、屋根やベランダなどの平面部分や、浴室やトイレなどの湿気の多い部分に適用できます。

また、色や模様などを自由に選べるため、建物のデザインに合わせることができます。料金も安価な部類なので、提案されることが多くなっています。

塩ビシート防水の費用・工期・耐用年数

塩ビシート防水の費用は、施工面積や塩ビシートの種類や厚さなどによって異なりますが、一般的には1平方メートルあたり4,000~6,000円程度です。工期は、1日から4日間程度です。耐用年数は、10~15年程度です。

塩ビシート防水のメリットとデメリット

メリット

塩ビシート防水のメリットは以下の通りです。

  • 耐熱性や耐候性に優れており、建物の動きに対応できる
  • 色や模様を自由に選べるため、建物のデザインに合わせることができる
  • 施工時に発生する臭いやホコリが少ない
デメリット

塩ビシート防水のデメリットは以下の通りです。

  • 施工時に気温や湿度などの条件が厳しく、乾燥時間が長い
  • 施工時に接着剤を使用するため、剥離や浮きが発生しやすい
  • 火気に弱く、発火しやすい

アスファルト防水

アスファルト防水の特性と施工部位

アスファルト防水はアスファルト材料を使用して防水効果を得る方法です。アスファルトは、石油から精製された黒色の粘着性の高い物質で、熱で溶かして塗布し、冷却して固めることで防水層を形成します。屋上・屋根などの平面部分に適用できます。

アスファルト防水の費用・工期・耐用年数

アスファルト防水の費用は、施工面積やアスファルトの種類や厚さなどによって異なりますが、一般的には1平方メートルあたり6,000~8,000円程度です。工期は、約1週間から2週間程度です。耐用年数は、15~25年程度ですが、定期的なメンテナンスや補修を行うことで延ばせます。

アスファルト防水のメリットとデメリット

メリット

アスファルト防水のメリットは以下の通りです。

  • 粘着性や耐久性に優れており、建物の動きに対応できる
  • 色や模様を自由に選べるため、建物のデザインに合わせることができる
  • 施工時に発生する臭いやホコリが少ない
デメリット

アスファルト防水のデメリットは以下の通りです。

  • 施工時に高温にする必要があり、火災や火傷の危険がある
  • 施工時に均一に塗布することが難しく、ムラや剥離が発生しやすい
  • 熱や紫外線に弱く、劣化しやすく、色あせやひび割れが発生しやすい

防水工事の施工方法や施工時期を選ぶ際のポイント

防水工事は建物の耐久性を保つために重要な工程であり、適切な選択が求められます。以下に、防水工事の実施にあたって施工方法や施工時期を選ぶ際のポイントを紹介します。

施工場所による選択基準

施工場所は防水工事の選択に大きな影響を与えます。例えば、屋根やバルコニーなどの露出部分では、紫外線や雨風に耐えることができる強固な防水材が必要です。一方、地下室などの非露出部分では、湿度や地下水に対する防水性が重要となります。

屋根

一般的な木造一軒家における屋根の防水工事には、シート防水が最も推奨されます。その理由は、耐久性と費用のどちらの面でも、シート防水には弱点がないからです。他の選択肢としてウレタン防水もあります。

バルコニー

バルコニーの防水工事では、一般的にウレタン防水やシート防水などが適用されます。多くの場合、見栄えやメンテナンス性などの観点からウレタン防水が選ばれています。

地下室

下室の防水工事には、防水コンクリートが適しています。地下室は地下水や湿度から建物を守るため、防水性が非常に重要です。また、地盤の動きに対する耐久性も求められます。

ビル屋上

ビル屋上の防水工事では、ウレタン防水、FRP防水、シート防水(塩ビ・ゴム)、アスファルト防水の4つの種類が主に使用されます。それぞれの場所と状況により、最適な防水工事の種類は異なります。

工事の時期による選択基準

工事の時期も重要な考慮点です。一部の防水材は、低温や高湿度の条件下では適切に硬化しにくくなります。そのため、季節や天候を考慮して最適な防水材を選ぶことが重要です。

防水工事を選ぶ際には、最後に工事の時期に応じて最適な方法を考える必要があります。工事の時期によっては、以下のような特徴や条件があります。

春は気温や湿度が安定しており、防水工事に最適な時期です。塗料を適切な状態で塗布するのに適した気温も湿度なので、仕上がりの品質が高くなります。ただし、花粉シーズンに突入してしまうと、影響で施工品質が低下する恐れがあります。基本的には、年間を通して依頼が殺到しやすいため、施工業者の混雑が予想されます。

夏は気温が高く日照時間も長いため、乾燥時間が短くなるので防水工事に適した時期です。ただし、気温が30℃以上などの高温環境下では乾燥が早い反面、塗りムラや剥がれのリスクも生じます。

秋は気温や湿度が安定しており、防水工事に適した時期です。しかし、落ち葉や花粉などのほか、台風の影響で施工品質が低下する恐れがあります。冬に依頼するよりも秋のほうが良いと言えます。

冬は気温や湿度が低く乾燥時間が短くなるものの、防水工事には不向きな時期です。気温が5℃以下など低すぎる場合は塗料の乾燥時間が長くなり、塗料の性能が低下することもあります。また、雪や凍結などの影響で問題が発生する可能性が生じます。

防水工事後のアフターケアと維持管理

防水工事の効果を維持するためのポイント

防水工事の効果を長持ちさせるためには、定期的な点検と清掃が重要です。特に、雨季や台風後などは、漏水や防水層の損傷がないか確認しましょう。また、防水層に重い物を置いたり、鋭利な物で傷つけないよう注意が必要です。

塗膜防水やアスファルト防水などの場合、定期的なメンテナンスでは塗り直しが必要です。また、ゴムシート防水や塩ビシート防水は、シートの剥がれや破損を定期的に確認しましょう。

防水工事を行った後も、以下のようなポイントに注意してアフターケアと維持管理を行うことが必要です。

  • 防水層の表面に汚れやゴミが溜まらないように定期的に清掃する
  • 防水層の表面に傷やひび割れが発生していないか確認する
  • 防水層の表面に重い物や鋭利な物を置かない
  • 防水層の表面に水たまりや凍結が発生していないか確認する
  • 防水層の表面に植物や動物が侵入していないか確認する
  • 防水層の表面に火気や高温の物を近づけない

防水工事のメンテナンスが必要な時期の目安

施工から10年経過

一般的に、防水工事の寿命は約10年とされています。そのため、施工から10年以上経過している場合は、防水層の劣化が進んでいる可能性が高いです。ただし、使用する材料や施工方法によっては、それより早くメンテナンスが必要な場合もあります。定期的な点検と必要に応じた補修を行うことで、建物を長持ちさせられます。

施工から10年経過したら、専門的な業者に点検や診断を依頼することが望ましいです。点検や診断では、防水層の厚さや密着度、劣化度合いなどを測定し、必要に応じて補修や改修を行います。

劣化症状が出ている

壁や天井からの水滴、湿気やカビの発生、壁紙の剥がれ等、建物に劣化症状が見られる場合も防水工事のメンテナンスが必要です。劣化症状は防水性能が低下している可能性が非常に高いということを示しています。早めに専門家に相談し、適切な対策を講じた方が良いでしょう。

防水工事は、劣化すると以下のような症状が出てきます。

  • 防水層の表面に色あせやひび割れが発生する
  • 防水層の表面にムラや剥離が発生する
  • 防水層の表面や室内にカビや汚れが発生する
  • 防水層の下に空洞や浮きが発生する
  • 防水層の劣化部分から水漏れや湿気が発生する

上記のような症状が出てきたら、早急に専門的な防水業者に点検や診断を依頼してください。放置すると、建物の劣化や室内に悪影響を及ぼすだけでなく、健康や安全面にもリスクが高まります。

まとめ

今回は、防水工事を行う目的とは何か、防水工事の種類別に見たメリット・デメリットや選択基準などを解説しました。

防水工事は、経年劣化によって傷んでしまった防水層や防水シートを最適な状態へと直し、建物の耐水性を保つために非常に重要です。防水工事には様々な種類がありますが、それぞれの特徴やメリット・デメリットを理解して、施工場所や建物の劣化状況、工事の時期などに応じて最適な方法を選ぶことが必要です。

また、施工後も定期的なメンテナンスを行うことで、防水効果を保って建物を長持ちさせることができます。どんな小さな劣化症状も見逃さず、早めの対策を心掛けましょう。